エスコフィエでワインの神秘を体験

エスコフィエ〜Escoffier〜

銀座にむかーしからあるレストラン、エスコフィエ。フランス料理の発展に多大な影響を与えたオーギュスト・エスコフィエの名前を冠したお店ですが、もう一昔二昔前のレストランという印象が強く、お店の前を通っても、ここに来ることはないだろうなぁって思っていました。

でも一年くらい前かな?エスコフィエオーナーの平田さんのワイン本を読んで、ちょっと面白いかなと興味が沸いていたんですね。

なにしろ既存のワインの考え方とずいぶんと違うアプローチ。驚きいっぱいの内容でした。一方で疑問に思っていたことが納得できた部分も多々。やっぱりそうだよねーなんて思いながら読みました。

自分の中になかったワインへのアプローチは、家で色々と検証を重ねて理解を深めてきたので、今度は直接お話を伺おうとエスコフィエにお昼に行ってきました。

ワイン好きの友達三人を誘っての訪問(たくさんワイン飲むつもりだったので人数が必要)。三人ともエスコフィエのワイン理論を知らないまま連れて行きました。

エスコフィエ〜今や絶滅したと言って良いクラシックなフレンチ〜

入り口にカタカナで書かれている店名。クラシックというよりなんかかわいらしい印象を持ってしまうのですが、中に入ると重厚で高級感がさすがにある。こういうインテリアもうなかなか見ないですね。非常にクラシカル。ちょっと緊張しちゃいます。

数年前は誰が今行くんだろう?って思っていたエスコフィエですが、混んでますね。おじ様おば様がたで賑わっています。

エスコフィエのワインの提供方法

電話で前もって平田さんの本を読んでいて、その内容を体験したいと話していたこともあり、食事…というよりワイン講義。僕は内容はわかっていますが、連れて行った三人は知らないことなので、一から説明してくれました。初めて知ることばかりですごく驚いていましたね。

実際にお会いした平田さんはとても貫禄がありました。最初は少し緊張してしまいましたが、色んなことを話してくれ、かなり勉強になりましたね。

プロのワインの扱い方。一見ワインは、コルクを抜いてただグラスに注ぐだけのように思いがちですが、まったく違うことがわかります。美味しいワインをサーブするためには温度の調節や酸素を取り込むなどの工程が必要になります。

単に飲み頃温度にするだけじゃないんです。簡単に言うと一度温度を適温以上に上げてから下げる。温度計を必ず使うのもエスコフィエ流。ボトルの温度と中心の温度は違うからですね。そして温度の調整はボトルで行う必要があります。適温にしたワインをグラスに注いだものと、冷たいワインをグラスに注いでから温度が上がったものは別物になります。

エスコフィエ〜ワインの味が決まる瞬間

そして何より面白いのはグラスに注ぐことで初めて味が決まるという考え方。ボトルの状態はまだ味が決まっていない準備段階。グラスに注がれると、そのグラスの味になるというのが平田さんの理論。

グラスによって味が変わるのはまぁ当たり前といえば当たり前なのですが、さらにすごいのが、一度味が決まったワインは、グラストゥーグラスで違う形のワイングラスに注いでも味が変わらないということです。

グラスの大きさや形も、それぞれのワインにあったものがありますが、既存の考え方と違って、料理が重くなるほど、グラスを小さなものを使うのも特徴。小さななグラスの方が味に凝縮感がでる。だんだん小さなグラスに変えるのは抵抗がある場合は、一度小さなグラスに注いでから、それを大きなグラスに移し変えればいいんですね。

エスコフィエで料理とワインのマリアージュを経験すると、ワインは料理を選ばないことがわかります。色あわせや、産地合わせがマリアージュの基本ですが、温度とグラスの形、大きさを変えれば、例えば赤一本でコースの全ての料理に合わせることも可能だったりします。普通合わないといわれる組み合わせも、これらを駆使して合わせちゃうからすごい。

実際にこれらを経験してしまうと、あまりに味が違うから納得せざるを得ない。けど理由はイマイチわからないんですね。分子の話などから説明もしてくれますが、なんかあんまり理論的ではない。でも事実は事実。

エスコフィエ〜樹グラスのニュートラルな味わい〜

ワインはグラスに注いだときに初めて味が決まると言いましたが、味が決まる要素としてグラスの形状も大切だったりします。左右対称のグラスに注がれて初めて味が決まります。なのでグラスを斜めにしてワインを注ぎ、立てずに飲んだ場合と一度立てた場合では味が違います。立てる前はボトル内と同じ味。

味が決まっていないワインは非常に柔らかく柔軟性があります。実はもっとも料理と相性がいい(どんな料理にも寄り添う)状態。なのでエスコフィエには独自に開発した左右非対称の樹というグラスがあります。超万能グラス。

左右対称のグラスで味が決まってしまうので、デキャンタにワインを入れても味が決まってしまいます。そのデキャンタの味になります。なのでエスコフィエではデキャンタージュは行いません。パニエもなくて、デキャンディングクレイドルを使っています。味が決まるだけじゃなくてデキャンタージュは味の変化が激しい(負荷がかかりすぎる)のでやらないわけです。もっとゆっくり酸素を取り込む必要があります。

デキャンタに関しては本当にワインにこだわりのあるところでは使話ないところも多いです(だからこないだ書いた5大シャトーを飲んだときに使っていたのには驚いた)。まぁあえて使うとしたら若いワインの硬すぎる時でしょうか?

味が決まる話はまだまだ色々とあるのですが割愛。樽から直接グラスとか、ボトルからボトルとか。色々と実験してます。

エスコフィエのワイン

実際にいただいたワインは赤白ボトルで一本づつ。白は、お勧めされたアンドレ・ヴァタン・サンセール・レ・シャルム2010。赤はおまかせしたジュイヤール・ヴォルコ・ヴィッキ・ボージョレヴィラージュヌーヴォー・ルシャピトール2011。エスコフィエのワインは、生産者ともきちんとした関係が築けているものばかりだそう。誰かわからない人が作ったワインは置いていません。ヨーロッパ(特にフランス)のワイン。いいワインが多々ありますが、超高級銘柄ではありません。ヴィンテージも割と新しいものが主流。それを美味しく飲ませてくれます。

色んな料理と合わせたかったので品数の多いコースにしましたが、コース料理以外にも酢との相性や、北のサンセールと、南のオリーブオイルの相性なども試させてもらいました。

美味しいサンセールでしたが、樽型のグラスよりも風船型の丸いグラスの方がずいぶんとボリューム感が出ます。樹だとよりニュートラル。

ボージョレはさらにすごかった。今この時期にヌーヴォー?って思ってしまいましたが、すごく美味しい。というかこんなヌーヴォーは初めて飲んだ。色こそ紫がかったガメイっぽいんだけど、味はまろやかで、よくあるヌーヴォーの華やかさには欠けますが、非常に美味しい。まったく色合いの違うホタテのグラタンともグラスを選べば合う。

エスコフィエの料理

料理自体はクラシックを通り越す古さ。美味しい…のかこれは?まずくないですけどね。昔一度味を変えたことがあるらしいんだけど、前の味に戻してくれという声が大きかったため戻したそうです。

エスコフィエのデセール

料理とワインは非常になじむ感じだったのですが、一つだけ圧倒的に感動的だったのが、デセールのフランボワーズのソルベと、サービスで出してくれた同じ造り手のランク下のボージョレ・ヌーヴォー。これを専用グラスの樹で合わせると、もうそれぞれの味が口の中で高まりあって、さらに新しい香味を作り出しました。樹ではないグラスだと多少バッティングするからすごい。

エスコフィエ〜料理とワインのマリアージュ

でも感動的な組み合わせはこれだけで、今までに他のお店で感動的なマリアージュは多々体験しているので、良質なワインは料理を選ばないということを理解しつつも、もっとお互いを高めあう相性の良さはあるよなぁというのが正直なところ。なじむ相性の良さと高める相性の良さはまた別物かと。高める相性には例えば臭みを際立たせる(牡蠣の磯臭さとかね)みたいな好きな人はたまらないけど、苦手な人は余計食べれないみたいのもあるから難しいけどね。

エスコフィエのワインの健全さ

エスコフィエで体験できるワインの神秘の数々は、そのワインが健全であるかが肝になります。どんなワインでも当てはまるわけではないんです。熱劣化などをしているワインはダメ。実はリーファーといいつつリーファーコンテナを使ってない業者なんかもあるようなので、自分で飲んで、そのワインが健全かどうかがわかることが大切になります。明らかに味が変化しているものはすぐにわかりますが、一見わかりにくいものってたくさんあるんですね。んっ、なんか変かも?みたいのが。

同じワインでも環境が違えばずいぶんと違う味になってしまうので、もちろん銘柄が大切ですが、それ以上にどんな状態のワインかが大切なんだろうなぁと思っています。

先日僕も飲んだばかりですが、例えばラフィットを飲んだってだけではあまり意味がなく、いつ(飲み頃を迎えているかどうか)、どんな状態(輸送や保管はどんな環境)、飲み方(温度、使う道具、グラスなど)なんかにも気を配らないとダメなわけです。それでも古酒だとボトル差があります。

エスコフィエのコーヒー

そうそう、エスコフィエのコーヒーはホリグチのもの。でも運ばれてきた瞬間に感じる機械抽出ならではの香り。味もやっぱりそうで、飲みにくい。ハンドドリップはなかなか難しいと思うけど別物になっちゃうね。もったいないなぁ。上に書いたような状態の大切さはコーヒーも同様で、かつコーヒーの方が差が大きいですね。

まだまだ書いてないことがたくさんあります。エスコフィエはワイン好きなら一度は訪れる価値ありです。なんとなく行ってしまうと、面白い形のグラスが出てくるだけで、魅力がわからずに終わっちゃうお店でもあります。これだけワインにこだわっていることに気づけないでしょうね。

変に疑わずに素直に味わえば、非常に面白い体験ができます。コーヒーとかもそうだけど型にはまっちゃうとつまんないですから。色んな考え方を吸収して自分なりの解釈をしてけばいいですよね。

エスコフィエの店舗情報

住所:東京都中央区銀座5-4-15 西五ビル 2F

電話番号:050-5594-6877

営業時間:ランチ 11:30~15:00(L.O14:00) ディナー 17:30~22:00(L.O20:50)

定休日:年末年始