コーヒーのテロワール

テロワール〜Terroir〜

テロワール、ワイン用語ですが近年はコーヒーなんかでも使う人が増えています。でもすごく違和感があるんですよね。使っちゃダメってことはないですが、はっきりいって変。そもそもテロワールをきちんと理解しているのかが疑問です。

スペシャルティコーヒーは、ワインが持っているイメージを上手く取り込んで発展していますが、だからテロワールという語も使われるようになっているんですよね。

美味しいコーヒーを作り出す土地のことをさしてテロワールと言っているんだけど、実際テロワールはそんな単純なものじゃない。というかワインにおいてすらすごく曖昧な語だったりします。

テロワールがワインの世界で頻繁に使われるようになったのは80年代、新世界のワインの台頭してきた頃です。新世界のワインに対する伝統産地(フランス)の自己防衛の手段だったわけです。

気候でも土地でもなく、それらを全て含んだ「場」こそがテロワールです。すごく便利な言葉で、銘醸ワインが何故素晴らしいのかを簡単に示します。

昔はぶどう品種が産地によって限定されていたので、それが個性で土壌なんて特に問題となりませんでした。それがぶどう品種の世界中への拡散し、素晴らしいワインが世界中で生まれてしまったため、伝統産地はそれに対抗するため、他では真似のできない場=テロワールを謳い始めたんですね。

テロワールが使われだしたのは80年代とそこまで古くないですが、この言葉が使われだしたのには、フランスが積み重ねてきた歴史があってこそで、だからフランス人が使うと自然に聞こえますが、日本人だとソムリエが使ってもちょっと違和感を感じてしまいます。その本質が理解できないというかね(当然ボクも。言葉では話せても感覚的にずれてしまう)。ちょっと違うけど、ソウルとか侘び寂びなどのような特有の感覚に近いかな?

そもそもテロワールが素晴らしいからワインが美味しいっていうのが変な話で、いまやゆるぎない産地であるボルドーやブルゴーニュは、昔からのワイン産地ではないんですね。その場がぶどう栽培にもっとも適しているなんて誰にもいえないわけです。ボルドーのグランクリュだって、科学的に素晴らしいテロワールだから選出されたわけではなく、当時、良質なワインを造っていた土地という事実があっただけですからね。

ぶどうは、古代ローマ時代にヨーロッパ内陸に広がっていったわけですが、温かい気候を好むぶどうは、今のローヌ辺りから北へはなかなか広がっていきませんでした。

色んな試みの中で、その土地に適用する品種を見つけ出し、長い年月をかけてボルドーやブルゴーニュといった銘醸地ができました。この長い歴史の中で、さまざまな銘醸地が生まれ消えていったんですね。新世界の台頭からわかるように、銘醸地は移り変わります。

だからテロワールなんて関係ない…かというとそういうわけでもなく、その土地にあったぶどうを使い、それにあった醸造法でワインを造ることが良いワインを生みます。造り手の思想が最も大切。その土地を生かすも殺すも造り手次第。ブルゴーニュにおいては同じ畑内でも造り手が違えばまったくクオリティが違います。

今のどんな良いワインを産む畑だって、それは人が手を加えて作ったものなんですね。手を加えないと出来ません。そして手を加えれば何でも出来るわけでもありません。

フランスはぶどう栽培に厳しい環境だからこそ、その土地ごとにぶどうが限定されています。南に行けば行くほど、品種は多彩になります。イタリアなんてほんとにたくさんの品種がありますね。どんな品種もそれなりに育ってしまう土地。そしてその品種が限定されてしまうことが、フランス産地の個性だったんですね。産地と品種の一体化。

技術革新とかまたその反動の原点回帰的な動きとか、ビオなど色々とあるわけですが、単純にテロワールがいいから、良いワインが出来る、良いコーヒーが出来るなんて言えないかもしれないですね。

いくらでも書けるけど、もうやめとこ。なんにしてもスペシャルティコーヒーが今後どう発展していくかは楽しみです。脱ワインをしてからが面白いかなぁなんて個人的には思います。いつになるやら…。